エシカルブランド図鑑

ファッションとマイクロプラスチック問題:洗濯から考えるエシカルな服選びとケア

Tags: マイクロプラスチック, 環境問題, 洗濯, サステナブルファッション, 繊維

見えない環境負荷:ファッションとマイクロプラスチック

私たちの日常に欠かせないファッション。その服を洗うという当たり前の行動が、実は「マイクロプラスチック問題」と深く関わっていることをご存知でしょうか。海や川に流れ込む微細なプラスチックごみは、生態系や最終的には私たちの健康にも影響を及ぼす可能性が指摘されています。中でも、衣類からの排出はマイクロプラスチックの発生源として無視できない存在です。

エシカルファッションに関心を持つ読者の皆様にとって、この問題は服選びや日々のケアを考える上で重要な視点となります。この記事では、ファッションとマイクロプラスチック問題の関連性、そして私たちにできる具体的な対策について解説します。

マイクロプラスチックとは何か?ファッションとの関連性

マイクロプラスチックとは、大きさが5mm以下の微細なプラスチック粒子の総称です。これらは、大きなプラスチックごみが波や紫外線によって劣化・分解されてできるもの(二次マイクロプラスチック)と、製造段階で意図的に小さく作られるもの(一次マイクロプラスチック)があります。

ファッションの世界で問題となるのは、主に合成繊維から発生する「繊維状マイクロプラスチック」です。ポリエステル、ナイロン、アクリルといった化学繊維で作られた衣類は、着用や洗濯の過程で微細な繊維が抜け落ちます。これが排水を通じて下水処理施設へ送られますが、現状の処理技術では全てのマイクロプラスチックを取り除くことは困難であり、最終的に河川や海洋へと流れ込んでしまうのです。

なぜ洗濯がマイクロプラスチック排出の大きな要因なのか

合成繊維は、私たちの衣服の多くの部分に使用されています。フリースやダウンジャケットの中綿に使われるポリエステル、ストッキングやスポーツウェアに使われるナイロン、ニット製品に使われるアクリルなどが代表的です。

これらの合成繊維は、繊維が細く、摩擦に弱いため、洗濯槽の中で他の衣類と擦れ合うことで、大量のマイクロファイバー(繊維状マイクロプラスチック)が抜け落ちてしまいます。研究によると、一回の洗濯で数十万本から数百万本ものマイクロファイバーが流出するという報告もあり、世界中の家庭からの洗濯排水が、海洋のマイクロプラスチック汚染の大きな要因の一つと考えられています。

洗濯から始める、私たちにできる具体的な対策

マイクロプラスチック問題に対して、私たち一人ひとりができることはあります。日々の洗濯や服選びの視点を少し変えるだけで、環境負荷を減らすことにつながります。

  1. 洗濯フィルターの使用: 洗濯機に取り付ける専用のフィルターや、洗濯ネットのように衣類と一緒に洗うことで抜け落ちたマイクロファイバーを捕捉する製品が開発されています。これらの製品を導入することで、排水へのマイクロファイバー流出を大幅に削減することが期待できます。

  2. 洗濯方法の工夫:

    • 洗濯頻度を減らす: 衣類へのダメージを減らし、繊維の脱落を抑えるため、必要以上の頻度で洗濯しないように心がけましょう。
    • 水温を低くする: 高温での洗濯は繊維を傷めやすく、マイクロファイバーの脱落を促進する可能性があります。可能な限り低温で洗濯しましょう。
    • 脱水時間を短くする: 過度な脱水は繊維に強い負荷をかけます。必要最低限の脱水に留めましょう。
    • 洗濯ネットを使用する: 特に合成繊維の衣類や、毛羽立ちやすい素材の衣類は、洗濯ネットに入れて洗うことで、他の衣類との摩擦を減らし、繊維の脱落を抑制できます。
    • 液体洗剤を選ぶ: 粉末洗剤は研磨作用により繊維を傷つけやすいという指摘があります。液体洗剤の方が繊維への負担が少ないとされています。
  3. 服選びの意識:素材に注目する エシカルファッションの観点から素材を選ぶことは、マイクロプラスチック問題への根本的な対策となります。

    • 天然繊維を優先する: 綿、麻(リネン)、ウール、シルクなどの天然繊維は、土に還る生分解性の素材です(ただし、栽培方法や加工方法によっては別の環境問題が発生する可能性があります)。洗濯で繊維が抜け落ちても、合成繊維由来のマイクロプラスチックのような形で環境中に蓄積するリスクは低いと考えられています。
    • 再生繊維の注意点: リサイクルポリエステルなどの再生合成繊維も登場していますが、これらも合成繊維であるため、洗濯時にはマイクロファイバーが流出します。しかし、新たな石油資源の使用を減らすという点では環境負荷低減につながります。素材の特性を理解した上で選択することが重要です。
  4. 衣類を長持ちさせるケア: 服を大切に長く着ることも、環境負荷を減らすエシカルな行動です。正しいお手入れ(洗濯、保管、修繕)をすることで、衣類の寿命を延ばし、新しい服を購入する頻度を減らすことができます。これはマイクロプラスチックの発生源となる新しい衣類の生産を抑えることにも繋がります。

まとめ

ファッションとマイクロプラスチック問題は、地球環境と私たちの健康に関わる重要な課題です。合成繊維製品の洗濯から発生するマイクロファイバーの流出をゼロにすることは難しい現状ですが、日々の洗濯方法を工夫したり、服を選ぶ際に素材を意識したり、今持っている服を大切にケアしたりすることで、私たち一人ひとりがこの問題の解決に貢献することができます。

エシカルファッションは、単に環境に優しい素材やフェアな労働環境で作られた服を選ぶだけではありません。購入後のケアを含め、服の一生を考慮した行動全体を指します。マイクロプラスチック問題への意識を持つことは、より包括的なエシカルな消費行動へと繋がる一歩となるでしょう。完璧を目指すのではなく、できることから少しずつ、私たちの日常にエシカルな視点を取り入れていきましょう。