ファッション業界の「水」問題:エシカルな服選びでできること
ファッションと「水」問題:見過ごされがちな繋がり
私たちの日常に欠かせないファッションは、実は地球の水資源に大きな影響を与えています。衣服の生産プロセス、特に素材の栽培や加工、染色といった工程では、大量の水が使用され、また汚染された排水が環境に排出される問題が指摘されています。
エシカルファッションに関心を持つ上で、この「水」という視点は非常に重要です。ファッション業界が抱える水問題の現状を知り、エシカルな服選びがどのように水資源の保全に繋がるのかを理解することは、より持続可能な消費行動へと繋がります。
ファッション産業における水の消費と汚染の現状
衣服が私たちの手に届くまでの過程では、驚くほど大量の水が必要です。例えば、一般的なコットンTシャツ1枚を作るのに、栽培から製造まで約2,700リットルの水が必要と言われています。これは、人が約2年半かけて飲む量に匹敵する量です。特に、大量の水と農薬・化学肥料が必要な綿花栽培は、水資源の枯渇や土壌・水質汚染の大きな原因の一つとされています。
また、染色や洗い加工といった製造工程でも大量の水が使用されます。これらの工程で使われる化学物質を含む排水が、適切な処理をされずに河川や海に排出されると、水生生物の生態系に深刻な影響を与えたり、人々の健康を脅かしたりする可能性があります。美しい色や風合いを持つ衣服の裏側で、水の消費や汚染という環境負荷が存在しているのです。
さらに、衣服の洗濯によって発生するマイクロファイバー(マイクロプラスチック)が排水と共に海に流れ出し、海洋汚染の原因となることも、ファッションと水問題の関連性として近年注目されています。
エシカルファッションブランドの取り組み
このような水問題に対して、エシカルファッションブランドは様々な取り組みを行っています。
一つは、節水型・環境配慮型素材の使用です。例えば、一般的なコットンに比べて水の使用量が格段に少ないオーガニックコットンや、再生繊維(リサイクルポリエステルなど)、あるいは製造過程での水使用量が少ないテンセル™リヨセルなどのセルロース繊維を選ぶブランドが増えています。リサイクル素材の活用は、新たな資源採取に伴う水消費を抑える効果も期待できます。
次に、製造プロセスにおける水の管理と技術革新です。従来の染色方法に代わる節水型の染色技術(例:無水染色、エアゾール染色)や、排水を浄化して再利用するシステムを導入する工場との連携を重視するブランドもあります。また、ジーンズの洗い加工など、特に水や化学物質を多く使用する工程を見直し、レーザー技術やオゾン加工といった環境負荷の低い技術を採用する動きも広がっています。
さらに、透明性の確保も重要な取り組みです。サプライチェーン全体で水の管理がどのように行われているかを公開したり、水のフットプリント(製品が生まれるまでの水の使用量)を算定・開示したりすることで、消費者や関係者が問題意識を持ち、改善を促すきっかけを作っています。
水問題を意識したエシカルな服選びのポイント
私たち消費者が水問題に対してできることは多くあります。エシカルな視点を持って服を選ぶ際に、以下のポイントを意識してみましょう。
- 素材を確認する: オーガニックコットンやリサイクル素材、テンセル™リヨセルなど、水の使用量や汚染負荷が比較的低い素材を選んでみましょう。素材の情報を公開しているブランドを選ぶことが助けになります。
- ブランドの取り組みを調べる: ブランドがどのような素材調達、製造プロセス、排水管理を行っているか、ウェブサイトなどで情報を確認してみましょう。環境への配慮を明確に打ち出しているブランドは信頼の一つの目安となります。
- 服を長く大切に着る: 新しい服を購入する頻度を減らし、今持っている服を修理したり、適切にお手入れしたりして長く着ることは、新たな生産を抑制し、間接的に水資源への負荷を減らすことに繋がります。
- 洗濯方法を見直す: 洗濯の回数を減らす、適切な量の洗剤を使用する、洗濯ネットを活用してマイクロファイバーの流出を抑えるなど、日々の洗濯方法を工夫することも効果的です。
まとめ
ファッション産業が水資源に与える影響は複雑で広範にわたります。大量の水の消費、有害な化学物質による汚染、マイクロファイバーの流出など、様々な問題が存在しています。
しかし、エシカルファッションブランドはこれらの問題に対し、素材の選択、製造技術の改善、透明性の向上など、多角的なアプローチで取り組んでいます。そして、私たち消費者も、少しの意識と選択によって、この水問題の解決に貢献することができます。
水問題を意識した服選びは、地球の水資源を守るための一歩です。完璧な選択は難しくても、素材やブランドの情報を調べたり、今ある服を大切にしたりすることから始めることができます。ファッションを通じて、見過ごされがちな水問題に目を向け、より持続可能な選択を積み重ねていくことが大切です。